第5章 米国の教育
多くの学校をまわってプレゼンテーションをしてきたなかで、アメリカの学校と教育について印象に残ったことをあげたい。
しかし、米国では州によって教育の仕方も違うし、都会と田舎でも変わる。
そこで、私が見た学校を例にする。
授業を手伝うボランティア
米国の学校は、人がよく出入りしていて開放的だ。授業に母親ボランティアが参加していることもある。
父母だけではなく高校生や大学生などが手伝っているクラスもあった。
教育実習生が1学期間教師につくこともある。
授業についていけない生徒には、チュータが個別で「リーデイング」(読むこと)を教えていた。
積極的な生徒
日本は受け身、欧米は積極的とよくいわれるが、それはこういうことかもしれない。どこのクラスでもたいていたくさんの質問を受けた。
説明の途中でも彼らは容赦しない。
ボンボン手を挙げてくる。
指されるまで手を挙げっぱなしの生徒もいた。「質問がある人だけ手を挙げなさい」と教師が言うと、数名が挙手するが、いざ答えるとなると「私のお父さんがこの前、出張で日本へ行ったんだ。おみやげに日本のお菓子をもらったよ」というように自分の経験を話す。こういうことが多かった。
きっと話を聞いてほしかったのだろう。だから自分をアピールしたのだと思う。
ユニークな授業
ニューヨーク州キックロード小学校の教師シエリーは、ワシントンDCについて教えていた。
教科書を読んで教師の質問に生徒が答える授業が一般的かもしれないが、シエリーの教え方はちょっと変わっていた。
生徒2,3人が組になり、ワシントンDC内の建物、ホワイトハウス、FBI本部、国会議事堂などをダンボールやボール紙を使って作りあげ、教室に展示する。
また、ホワイトハウスで働いている職員を教室に招き、生徒が質問できる機会を与える。さらに、ワシントンDCの歴史ミュージカルの台本を自らつくり、指導していた。
台本を覚えることが、歴史の勉強にもなり、ずっと後まで頭の中に残るそうだ。
ミュージカル発表の日、生徒は米国国旗の色に合わせた赤と青の衣装を着て、両親とともに学校に来た。
会場は、生徒が作ったホワイトハウス、FBI本部、国会議事堂などが展示されていて、博物館のようである。
ミュージカルが終わると、生徒は自分が作った展示物の前に立ち、訪れる人々に展示物の説明をする。
ワシントンDCの歴史を学ぶだめに、工作、音楽、発表まで学習できる授業であった。
また、ある中学校の社会科の授業でプレゼンテーションをしたとき、そこではアフリカの勉強をしていた。
生徒一人一人がアフリカの一国を選び研究発表をするという実におもしろい授業であった。
ケニアの民族衣装を着て登場し、それを説明する生徒、タンザニアの人々の住居模型をつくり、みなに見せながら発表する生徒、モロッコの料理をつくって持参し、クラスメートが試食できるようにみなに配る生徒など、彼らは実にさまざまに工夫して発表する。
視覚、聴覚、味覚をフルに使う授業である。
興味がある国を生徒が自分で選ぶので、研究する意欲もわくそうだ。
発表を聞くと、生徒は発表者のために感想を書く。
研究発表のテクニックも学ぶのである。
成績より大切なもの
家庭では子どもがよく手伝っていた。
学校の成績さえ良ければ、家で勉強ばかりしていればいい…というわけではな
い。
食事の用意を母親がしたらその片づけは子どもがする、というように家事の責任も分担している。
3人の子ども持つキヤレンは、子どもが最善を尽くしたならば、成績が悪くてもしかったりしないと言っていた。
キヤレンは、レベッカは踊りが得意で、クリスティンは歌が上手だなどと、子どもの長所を良く見てそれを育てようとしている。
ホームスクール
ホームスクールは通常の公立や私立の学校へ通わずに自宅で勉強を続ける家庭学校のことで、たいていは親が教えている。
子どものペースで学問を進められる利点があるが、社会との接点は少なくなる。
そこで、次のような工夫をしているホームスクールがあった。
さまざまなホームスクールの親や子どもが情報を交換するために、特別なプログラムをもうけて週に一度集まる。
私はそのプログラムでもプレゼンテーションを行った。行儀の良い子どもたちが印象に残った。
サマーキャンプ
約3ケ月と長い夏休みの間、多くの子どもたちはサマーキャンプやサマースクールに参加している。
サマーキャンプは、スポーツ、遊びを中心としてキャンプ場や避暑地で開かれる。
カヌー、ヨット、テニス、乗馬、音楽、絵画、工作など盛り沢山の講座がある。
サマースクールは主に学校で開かれる。
補習、スポーツ、工作などの講座が受けられる。
プレゼンテーションを行うために、私もこのサマーキャンプに参加した。
私は1週間のプログラムのスタッフになった。
ここでスタッフが子どもに伝えるものは「私たちはあなたを愛していますよ」「あなたたちは本当にすばらしいのよ」というメッセージである。
スタッフは、次のことを心がけた。子どもと平等でいること、子どもが出すうるさい音や叫び声も歓迎すること、自分自身が楽しむことなどである。
このキャンプでは、まず子どもたち一人一人に、1週間、何をしたいか、何を期待して来たかなどを聞き、その上で、スタッフがプログラムをつくっていった。
野外ゲーム、工作、話、おやつ、一人になって静かにしている「クワイエットタイム」の
時間もある。
のびのびと自分を開放している子どもたちの姿が忘れられない。
第6章へ続く